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読みもの詳細
イタリア&スペインの食文化に学ぶ(後編)
コラム 2017.07.25
美食の街サン・セバスチャンで料理交流
次に向かったのは、ビルバオから車で1時間のサン・セバスチャン。伝統ある会員制の「美食倶楽部」で、料理好きなおじさんたちに出会いました。もともとは男性しか入れないという社交場。いまもキッチンだけは女人禁制です。男は家では料理せず、こういう場所で酒を飲みながら料理する。実際に作っている人は数人なのですが、みんなでワイワイやっているのが楽しいんですね。エリアごとにそんな隠れ家的な倶楽部があるそうです。
ビルバオは20年かけて戦略的につくられて大成功した街。サン・セバスチャンは歴史的にサービス産業が発展していて、豊かに食を楽しむ文化がそれぞれ暮らしの中にとけ込んでいる街だと感じました。
「厨房は女人禁制」の美食倶楽部で、陽気なセニョールたちと料理交流。
僕も、おじさんたちの飲みかけの赤ワイン+越後味噌のタレをイベリコ豚に絡めた料理を作ったところ、天にあしらったネギの素揚げなど、「おお〜!こんな使い方が!?」とか言いながら、みなさん興味津々で見ていました。食べたおじさんが「お前は星付きレストランに行けるよ!」と言ってくれてうれしかった。半分酔っぱらいですけどね(笑)。
フードツアーにも参加しました。現地の人に案内してもらってバール巡り。5軒をはしごして、前菜、メイン、デザートまでをいただくツアーです。その中にワインセミナーや料理教室も組み込まれ、施設もちゃんとしたものがあって。これは長岡でもやっていきたい取り組みのひとつです。
ゲタリアという地域にも少し足を延ばし、「涙豆(なみだまめ)」という伝統野菜を守っている農家さんを訪ねました。
ミラノのコラボディナーはアクシデント続発!
そして、スペインを後にしてイタリアのミラノへ。新潟で出会ったニコラシェフとコミュニティスペース「BASE」で「串」をテーマにコラボディナー作り。以前、食の交流で新潟市に彼が来たのですが、干し柿や車麩、塩引き鮭など新潟の伝統食材を紹介して、一緒にディナーを作ったんです。ミラノでも同じことをやってみよう、同じ食材を使って5品ずつ作ろうぜ! と。カトラリーを使わない、手だけで食べられるコースを用意しました。
ところが……、食材が納期に間に合わなかったり、届いたけど違うものだったり。鯛をカルパッチョ仕立てにしようと思っていたのに、まず鯛が届かない……。やっと届いた鯛はボロボロだったので、味噌漬けにして焼き魚に。ペコロス(小玉ねぎ)を酢漬けにしようと思っていたのに、大きかったので天ぷらに変更し、鯛と一緒に串に刺して。
現地では、市場が休みの翌日である月曜は残りものばかりで、週の中でいちばん悪い日なんだそうです。旬のレンズ豆を頼んだのに、届いたものは缶詰……。オーブンがふさがっていたり。それなのに急にゲストが20人増えて、二転三転どころではなく、本当に戦場のよう。ニコラはホームだからブレることもなくこなしていましたが、僕は「わー! ヤバイな……」と気持ちは焦りつつも頭は努めて冷静に。
ミラノの「BASE」で、65人に「串」料理をプレゼン。キッチンの僕はてんてこ舞いでしたが、ゲストはゆったりとコースを堪能。
そして作り上げた当日のメニューは以下のとおり。予定メニューから4品(!)変更しましたが、ニコラの料理より美味しいとお世辞を言ってもらえましたよ(笑)。◎鯛の味噌焼きと浅葱のフリット
◎鶏レバーのバルサミコ風味の甘露煮と洋梨のグリル
◎鯛と野菜出汁とそら豆の炊き込みご飯 笹の葉に包んで
◎牛ハラミとホワイトアスパラガスの串焼き
ふきのとう味噌のザバイオーネ
◎レンズ豆で作ったあんこといちごの天麩羅
そしてこれから、日本で、長岡で取り組みたいこと
ミラノからヴェネツィアへ。リノベーションをしているチームがいて、お城や牢獄、馬小屋をレストランやゲストハウスに転用したり、アーティストも加わって様々な新しい試みが行われています。バーゼでは細長い鉄道の倉庫をリノベしたり、市民プールを転用した例も。観光の拠点になる事業に対して場所が無償提供されるなど、自由な発想を後押ししてくれる行政の支援もあるから、観光が強くなるんですよね。
スローフード発祥の地、ピエモンテ州のポッレンツォとバローロ、ブラにも行きました。スローフード哲学を教えるイタリア食科学大学のロビーでスローフード創始者、カルロ・ペトリーニさんにばったり遭遇。彼はこの大学の創立者でもあります。
ここにはワインバンクがあって、昔からのワインを土と共に紹介し、テイスティングもできるようになっていて、スローフードホテルも。学食だって、もちろんスローフード。完全予約制で無駄を出さないことも徹底しています。
充実した18日間を経て、食への意識の高さをひしひしと感じ、それが街づくりにも繋がり、人生を豊かにしていると実感。あちこちで作りながら、食べながら、体重も増えて帰国しました。最初はスペイン、イタリアのゆったりした気分が続いていましたが、だんだん日本時間になってきました。
スペインもイタリアも食べている時間が長く、とにかくみんな食べることそのものを楽しんでいます。日本では「サクッと食えればいいや」で終わっちゃうこともあるし、それを否定はしないけれど、食の優先順位を高めていかれたらと。食がいかに大事か、位置関係を変えていかないといけないなと思いました。
そんな店をつくり、そんな場を広げ、街づくりの意識をシェフたちにも伝えていきたい。料理の技術ではなく、食の考え方を伝える「Chefs Caravan (シェフズキャラバン)」というプロジェクトを始めたのはそんな気持ちからです。料理教室もそう。変えていけるところは変えなくては。スペインとイタリアで感じた食への考え方を、日本にどうやって根付かせていけるか模索したいですね。
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